もっと人間関係力を高めたいあなたへ、パフォーマンス心理学博士が贈る聖書のことば
佐藤綾子の
人とつきあう聖書の知恵
第2回
プロフィール
佐藤綾子(さとうあやこ):
日本大学藝術学部教授。博士(パフォーマンス学・心理学)。信州大学教育学部、ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究学科卒業。上智大学大学院文学研究科博士課程修了。1980年、日本初のパフォーマンス学創始。以降、各種ビジネスのブレインとして幅広く活躍中。著書150冊。最新刊『日経 WOMAN 元気のバイブル』(日経ビジネス人文庫)。『なぜあの人は尊敬されるのか』(中経出版)、『新版 かしこい女は、かわいく生きる。』(PHP研究所)。「佐藤綾子のパフォーマンス学講座(R)」を主宰。社団法人パフォーマンス教育協会(国際パフォーマンス学会)理事長。
ホームページ=http://www.spis.co.jp/
キレない心を育てる−アンガーコントロール
「怒りをおそくする者は英知を増す」
ちょっとしたことでキレて、人をなぐってしまったり、いつもは穏やかな人が、激高して相手に激しいことばを浴びせて、後でシュンと落ち込んでしまったり。世の中キレる人が急増しているようです。その理由の一つに、私たちの心にたくさんの欲求があるにもかかわらず、その欲求が満たされる可能性がどんどん減っているという社会状況があるでしょう。
価値観が多様化して、それぞれが違う考え方をもっているので、その社会の中で、自分の欲求を押し通そうとしても、誰も自分の欲求に気づいてくれない。あるいは、相手の欲求と自分の欲求が違うために、手助けもしてくれない、ということはよくあることです。
そんな時、私たちの心には、欲求不満からくる怒りの感情がむくむくと頭をもたげてきます。「こんなに一生懸命やっているのにあの上司はなぜ分かってくれないのか」、「これだけ子どものことを思って家庭のために努力しているのに、どうして子どもは反抗ばかりしているのか」と、それぞれの人がそれぞれの立場で、怒りの感情を噛み締めています。その怒りの感情の表現法は、その人の健康状態や性格によって、おおまかに三つのパターンに分かれます。
第一は、元気がよくて外向性の性格の人が欲求不満を溜め込むと、簡単に攻撃型に変わっていきます。第二は、元気もなく内向性の性格の人に欲求不満が溜まると、外に出せずにうつ状態になっていきます。第三は、普通の大人の反応で、適当に欲求不満を解決しながら、人とうまくやっていく人々です。
さて問題は、攻撃型のすぐにキレてしまう人でしょう。酔っ払いが酔った勢いでけんかして、醒めてからシュンとするのも一例です。このような状態を、心理学では「情動ハイジャック」と呼びます。「なぜ自分は腹が立ち、それに対してどう行動すべきか」という論理脳が働かず、一気に「気に入らないことがあった。それっ、やってしまえ」とばかりにキレてしまうのが、情動ハイジャックです。これを度々やっていれば、酔っ払いはもちろん、シラフの人でも社会からだんだん嫌われていきます。「付き合いきれない」と相手が思うからです。では、欲求不満から一気にキレないためには、どうしたらよいのでしょうか。
誰にでもできる一番簡単な方法が、テン・カウント法です。「一つ、二つ……」と、声に出して十まで数えましょう。数えている間、ほかのことをしてはいけません。とにかく体の動きを止めて、頭の動きも止めて数えるのです。その間ほんの数秒ですが、遅ればせながら、論理脳がここから働きだします。「今キレたらソンだ」とか、「相手にもそれなりの理由があるはずだ」という声が、心の中にわいてくるのです。これが、テン・カウント法の効果です。
ところで、この方法が考案されたのはごく最近のことですが、聖書は二千年前に、きちんとテン・カウント法を書いています。「怒りをおそくする者は英知を増」す(旧約聖書・箴言一四章29節)。
手足や舌が動き出す前に、その怒りに対する反応を遅くすること。そうしているうちに、ちゃんと論理脳が働きますよ、という聖書の教えが、「怒りをおそくする者は英知を増す」でしょう。アンガーコントロールの原型が、聖書の中にあるとは本当に感謝です。